2008年12月31日

憲法平成20年第2問

民間の個人又は団体による教育事業,慈善事業,博愛事業その他の公益事業(以下「教育等公益事業」という。)の自律的で適正な運営を確保し,その発展を支援するため,特定の教育等公益事業につき,国が助成金を交付する制度を次の要領でつくることになったと仮定する。

1 助成金の交付の対象となる教育等公益事業は,特定の宗教又は思想信条の信奉,普及又は実践を目的とせず,客観的にもこれと遮断された態様で営まれること。

2 助成金の交付を行うか否かの決定は,教育等公益事業の事業主体(以下「事業者」という。)の申請を受けて,内閣の所轄の下に置かれる委員会が行う。委員会の委員は,両議院の同意を得て,内閣総理大臣が任命する。委員は,独立してその職権を行う。

3 助成金の交付を受けた事業者は,教育等公益事業の実施内容及び収支(助成金の使途を含む。)について委員会に報告し,審査を受けなければならない。審査の結果,上記1の要件を満たしていないと認められたときは,委員会は,事業者に対して,助成金の返還等を命ずることができる。
4 委員会は,事業者に対し,いつでもその遂行に係る教育等公益事業に関して報告を求め,助言又は勧告をすることができる。
 この制度の憲法上の問題点を論ぜよ。

(出題趣旨)
私人による公益事業に対する国の財政的支援に関する憲法上の論点を,財政民主主義の観点から公金支出を制限する憲法第89条後段の趣旨を踏まえ,同条の「公の支配」の意義,独立行政委員会の憲法上の位置づけ及び独立行政委員会によって「公の支配」を行うことの可否等に関連させつつ問うものである。

(骨子)
(1)本問の助成金が教育事業・慈善事業等を対象としていることから,89条後段に反するのではないか。同条の『公の支配』の意義が問題となる。なるほど,『公の支配』という89条後段の文言から,同条の趣旨を同条列挙の団体の自主性を尊重する趣旨と捉えて『公の支配』とは国又は地方公共団体等の公権力がその事業の根本的な方向に重大な影響をおよばすことのできる権力を有することをいうとする見解がある。しかしこのように考えると,私学助成が困難となり25条や26条の趣旨が十分全うし得ない。そこで,89条後段の趣旨は,財政民主主義(83条)の観点から,美名の下に公の財産が浪費されるのを防ぐことにあると解する。よって,『公の支配』とは,当該事業が公の利益に沿わない場合にはこれを是正できる途が確保され公費の濫費を防止しうる程度の一定の監督が及んでいることをもって足りると解する。これを本問制度についてみると,補助金の交付を受けた者は,審査を受ける義務がある(3)し,その使途も一定の場合に限定(1)し,返還措置により事後的な是正措置がある(3)。またその税制措置の実効性を確保するため教育等公益事業の実施内容及び収支(助成金の使途を含む。)について報告義務(3・4)や助言・勧告権限を有している(4)。そうであれば,公の利益に沿わない場合にはこれを是正できる途が確保され公費の濫費を防止しうる程度の一定の監督が及んでいるといえる。よって,本問の制度は89条後段に反しない。
(2)助成金交付の決定等を「委員会」という職権行使が内閣から独立して行われる独立行政委員会に委ねている(2)が『行政権は,内閣に属する』とする65条に反しないか。なるほど,所轄とは,通常の意味での指揮監督がおよばない独立性の高い場合を言うので,65条に反するとも思われる。しかし,65条には『唯一の』(41条)・『すべて』(76条)という文言がない。65条の趣旨は権力分立(41条・65条・76条)と66条3項とあいまって行政に民主的コントロールを及ぼすところにある。したがって,国会のコントロールが及んでいれば,65条には反しない。これを本問についてみると,委員会の委員について両議院の同意が必要とされていることから国会のコントロールが及んでいるといえる。よって,本問の「委員会」は65条に反しない。

posted by まったりな。 at 06:00 | 東京 ☁ | Comment(0) | TrackBack(0) | 法律 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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